特許制度のみならず、知的財産制度、もっと言えば法制度は各国ごとに異なる。これ「領土主権」、「属地主義」の観点からは当然のことである。従って、「属地主義」に従えば、ある発明者が外国で特許を取得したいと考えた場合には、その国の法律に従ってその国の特許庁に権利化の手続を行うことが必要となる。

一方、知財、特に、特許の保護対象である発明は、基本的な概念である「新しい技術的アイデア」という点では世界共通のものである。従って、このような本来グローバルな資質を持つ発明を、いかにして「属地主義」というローカルな理念の下で適切に保護していくか、が発明の国際的保護の課題である。

「属地主義」の反対概念は、地域的広がりの視点からは「世界主義」である。従って、特許、産業財産権の分野では、「属地主義に基づく各国法制度による保護」が現在の法体制であり、この反対概念は「世界統一(産業財産権)法」である。これは現在多用されている語に置きなおしてみれば「属地主義」の方向性は「ローカリズム」であり、「世界統一法」の方向性は「グローバリズム」とも言える。従って、特許等の知的財産の保護に関しては、常に、ローカリズムとグローバリズムの双方の視点が必要になる。

ここで、「発明の国際的保護」の障害となっているのが、上記の「各国法制の相違」と「言語障壁」である。「言語障壁」に関しては、これだけ「国際化時代」と言われながら、なお、特許の世界では「言語」の問題が、審査機関側及び出願人側の双方にとり、非常に大きな課題となっている。「言語障壁」の問題に関しては、ここでは指摘するのみにとどめ、先ずは、特許制度が「各国法制の相違」の壁をいかにして超える努力をしてきたか、について論ずる。

各国特許法では「保護を受けようとする発明が新しいこと」(新規性)、及び「従来の技術よりも進歩していること」(進歩性又は非容易性)が規定されている。新規性は、言ってみれば発明に要求される「絶対的基本保護要件」であり、「進歩性」は、その国で、どのような観点から技術進歩をさせたいか、という「産業政策的保護要件」である。この新規性及び進歩性はどの国の特許制度においても、特許になるためには共通して要求される基本的な特許要件である。

従って、どの国にも、新規性、進歩性の特許要件が法律として存在するが、特に、出願人が最も克服に苦労する進歩性に関しては、各国共に、考え方及び進歩性のハードルの高さが微妙に異なる。その結果、概ね、進歩性を拒絶理由として、「世界的に見て、ある国では特許になったが、他の国では特許にならなかった」という事態が生じる場合が多い。

しかしながら、発明者、出願人としては、ある国のみならず、外国でも特許を取得して製品を販売したいと考えることはあるため、自国のみならず外国でも特許を取る必要性は当然にある。従って、「ある国では特許になるが他の国では特許にならない」という事態は出願人の保護とはならない事態である。

従って、以前から、各国の特許制度を同質のものとする方向の議論がなされている。これを担ってきたのが、現在のWIPO及び、その前身であるBIRPIである。WIPOではこの動きを「特許ハーモナイゼーション」と称し、特許実務家の間では、略して「特許ハーモ」という称呼で呼ばれてきている。なお、日本特許庁は、「特許ハーモナイゼーション」のことを「特許の国際的制度調和」と称している。

この「特許ハーモ」の流れは、各種の特許関連条約の成立となって表れており、現状、パリ条約 → PCT → PLTとなっている。また、WIPOは管轄が異なるが、世界貿易側面から知財保護を捉えたWTOによる「TRIPS協定」もある。以下、特許ハーモの歴史を見ていく。

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