国際消尽適用に関する台湾裁判所の判例と傾向

台湾では、専利権消尽について、「特許権の効力は、次に掲げるものに及ばない。…六、特許権者が製造、又は特許権者の同意を得て製造し
Taiwan Intellectual Property
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台湾では、専利権消尽について、「特許権の効力は、次に掲げるものに及ばない。...六、特許権者が製造、又は特許権者の同意を得て製造した特許品の販売後、当該特許品を使用又は再販売したとき。上記の製造、販売行為は、国内に限らないものとする」(専利法59条1項6号。実用新案と意匠にこれを準用)という規定が1979年に増設され、国際消尽という原則が採用されてきた。一方、商標法も1993年の法改正で国際消尽が明文規定されている。

権利消尽制度の理論的根拠といえば、かつて台湾の裁判所では「二重利得の防止」(報償説ともいう)が挙げられていた。即ち、専利権者が専利品を譲渡、またはライセンス授与によって一度合理的な報償を獲得した場合、二重利得を防止することで商品の流通の自由を守るという権利制限を設けていた(知的財産裁判所2012年度民専訴字第73号判決、知的財産裁判所2013年度民専上字第3号判決)。台湾最高裁判所の判決でも、専利権者が自ら製造・販売した専利品や、他人が製造・販売することに同意した専利品を市場に流通させたことで、専利権者が専利権の報償を得た場合、専利品に対する専利権は消尽し、これ以上の権利を主張することができない旨を示していた(最高裁判所2009年度台上字第597号判決)。

しかし、専利権・商標権は属地主義であるため、各国における権利者が必ずしも同一であるわけではない。自国と他国の権利者が異なる場合、いかに権利消尽を適用すべきかをめぐり、この三年間、台湾実務上で議論が交わされてきた。

ある事例において、台湾の商標権者は台湾の代理店であり、外国の商標権者は製品の製造元であった。台湾の商標権が外国の製造元の販売行為により消尽されてしまったかについて、下級審は、報償説の角度から、当該製品は台湾の商標権者により最初に流通されたわけでなく、当人も報償を得ていないので、台湾の商標権は他人の行為により消尽されないと判示した。ところが2020年に、台湾最高裁判所はこの見解を覆した。自国・他国の商標がまったく同じ図案である以上、登録されている権利者が異なっていても、本質的に言えば排他権はあくまでも同一の権利者から発生されるため、お互いにライセンスや法律上の関係があれば、その市場に流通させる行為により国際消尽も適用されるとした(最高裁判所2019年度台上字第397号判決)。

上記の議題については、近日、ある特許権の民事事件判決でも触れられている(知的財産裁判所2019年民専訴字99号判決)。原告である日本企業のP社は、台湾企業F社のウォーターサーバー用ボトルが、P社所有の特許権である「ウォーターサーバー用ボトル」を侵害したと訴えた。一方、F社は、係争特許は実施可能要件を欠き、係争ボトルも係争特許発明の技術的範囲に含まれず、そして何より係争特許権はすでに消尽していると抗弁した。裁判所は、これに対し係争特許が実施可能要件に違反しておらず、係争ボトルも係争特許発明の技術的範囲に含まれると判断した。そして、係争特許権が消尽しているかどうかが、主な争点となった。

被告であるF社は、第三者Xを通じて、係争ボトルを訴外人である日本企業A社から購入したと主張し、A社が発注元から係争ボトルを購入した際の注文書・納品書を証拠物として提出した。裁判所が係争ボトルの注文書を確認した結果、係争ボトルの最初の出所はH社であることが分かった。

「ウォーターサーバー用ボトル」の台湾特許権者は原告のP社であるが、当該案件には対応日本出願(優先権主張の基礎となる出願)があり、技術内容が台湾の係争特許と同一の対応日本特許は、原告であるP社と訴外人H社が共有していた。つまり、係争ボトルは対応日本特許の共有者が製造していたのである。

日本特許法73条2項では、「(共有に係る特許権)特許権が共有に係るときは、各共有者は、契約で別段の定をした場合を除き、他の共有者の同意を得ないでその特許発明の実施をすることができる」と規定されている。一方、台湾専利法では、「特許権者の同意を得て製造した特許品」に権利消尽が適用されると規定されている。

原告P社は、「対応日本特許の共有者であるH社が、原告の同意を得ずに実施したことから、H社が製造した特許品は、P社の同意を得ずに製造されたものであり、台湾専利法における"特許権者の同意を得た"という要件を満たさず、消尽効果を適用すべきでない」と主張した。

しかし、一審である知的財産裁判所は原告の主張を採用せず、かなり明快に、次のような判断を下した。

係争特許は対応日本特許と技術内容が同じであり、本質的には同じ権利者によるものである。対応日本特許は、原告の P社と訴外人の H社が共有しており、共有関係が結ばれている以上、両社の間には必ずなんらかの経済的又は法律的な関係があると言える。さらに、両社の共有上で、共有者の特許権使用に関して別段の定めがないことから、両社のいずれかが単独で特許権を実施することについて、すでに同意やライセンス授与等がなされていると見て差支えない。

係争ボトルは対応登録特許権の共有者である H社が製造したものであるため、合法的な特許品に該当し、この特許品は巡り回って被告 F社に売り出されたことから、国際消尽が適用され、原告 P社はこの製品に権利を主張してはならない。」

この二年間における台湾裁判所での「国際消尽」に対する実務判例は、他国の権利者間にライセンス授与または法律上の関係があれば、国際消尽原則が適用され、台湾における権利者の権利も消尽するとみなされる傾向がある。以前一部の裁判官に採用されていた「報償説」から本件を検証すると、本件において原告のP社は係争ボトルから報償を得ていないようであり、単に機械的に解釈すれば、本件の特許品は特許権者P社の「同意」を得てから製造されたものではないという原告の代理人の主張を無下にすることができない可能性もある。しかし、本件の裁判官は本質を捉え「係争ボトルが合法的な特許品であり、市場に流通して何度も譲渡された以上、商品の円滑で自由な流通を守るべき」という価値判断を下した。

一審の裁判官は、「経済的または法律上の関係」について、具体的な要件を述べなかったが、原告P社がH社と特許権を共有しようという合意を結んだ際に、両社の間には必ず何らかの取り決めがあったと言え、共有に伴う権利と義務を承知した上で同意したものと考えられる。

法文に国際消尽という原則が掲げられている前提上、権利者は他人とライセンスまたは共有関係を結ぶ前に、他人の行為による権利消尽というリスクを考慮することが望ましい。

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