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18 November 2020

人事労務チーム:懲戒解雇の手続について

今月は、ご相談されることも多い、懲戒解雇の手続について解説します。懲戒解雇処分は、処分の理由と相当性の有無について慎重に判断
Japan Employment and HR
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今月は、ご相談されることも多い、懲戒解雇の手続について解説します。懲戒解雇処分は、処分の理由と相当性の有無について慎重に判断することが必要ですが、さらに、手続面についても慎重に行う必要があります。

ご不明な点等ございましたら、ご遠慮なくご連絡下さい。

1.懲戒解雇の有効性

懲戒解雇は、懲戒処分として、また、解雇として、権利濫用と判断された場合は無効となります。

【労働契約法】

(懲戒)

第15条 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。

(解雇)

第16条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

具体的には、懲戒解雇が有効と認められるには、①懲戒解雇の理由となる事由とこれに対する懲戒の種類・程度が就業規則上明記されていること、②労働者の問題となる行為が就業規則上の懲戒解雇事由に該当し、「客観的に合理的な理由」があると認められること、③懲戒解雇が、労働者の問題となる行為の性質・態様その他の事情に照らして「社会通念上相当」であると認められることが必要となります。

このうち、③社会通念上の相当性を判断する際には、「その他の事情」として、手続の相当性が考慮されます。

2.手続きの相当性

(1) 就業規則等に手続規定がある場合

懲戒は刑罰に類似する制裁であるため、懲戒解雇を含めた懲戒処分が有効と認められるには、手続の相当性が必要であるとされていますが、具体的にどのような手続が必要とされるかについては法定されていません。

この点について、裁判例上は、就業規則や懲戒規程において、弁明の機会の付与や懲戒委員会における審議が規定されている場合は、 原則として、その手続を履践する必要があり、手続に瑕疵がある場合は懲戒処分は無効であると判断しています。

千代田学園事件(東京高裁平成16年6月16日判決、労働判例886号95頁)は、教員ら12名が、同人らが所属する教職員組合等による学園の乱脈経営等をめぐる記者会見における文書配布等を理由として懲戒解雇されたことの有効性が争われた事案です。裁判所は、就業規則等に賞罰委員会の開催及び訓戒・けん責以外の処罰をする場合は口頭または文書による弁明の機会を付与することが定められているにも関わらず、これらが行われていないため、重大な手続違反があるとして、その余について判断するまでもなく、懲戒解雇は無効であると判断しました。学園側は、教職員組合が記者会見を行った事実は明らかであると主張しましたが、これに対して、裁判所は、懲戒解雇が懲戒処分の極刑であり、通常は何らの対価もなく労働者に雇用契約上の地位を失わせるものである上、再就職の重大な障害ともなり得ることを考慮すると、懲戒解雇の適否について適正な審議を行うためには、・・・記者会見を行ったことのみならず、 これに対する教員らの関与の有無、程度、懲戒事由該当性の認識等についても、教員らに弁明の機会を与えて明らかにする必要があると述べて、学園の主張を退けています。

また、中央林間病院事件(東京地裁平成8年7月26日判決、労働判例699号22頁)は、病院の院長の懲戒解雇処分の有効性が争点となった事案です。同事案でも、そもそも懲戒事由該当性が認められていませんが、手続の相当性についても、就業規則に、院長、副院長、事務長からなる懲戒委員会を設けることが規定されているところ、そのような懲戒委員会が開かれたということはなく、また、当時、副院長が存在せず、懲戒解雇対象者が院長であるといった特殊性を考慮すると、 就業規則どおりでなければならないというわけではなく、代替的な方法によることも可能であるが、代替的な方法が取られたとも認められないため、手続的な面においても瑕疵が大きいと判断されています。

なお、就業規則等に定めた手続を履践しない場合でも懲戒解雇が認められている裁判例もあります。

わかしお銀行事件(東京地裁平成12年10月16日判決、労働判例798号9頁)は、銀行の副支店長が取引先から金銭を借り入れたこと及び取引先に不動産物件に関する情報を提供し個人的に謝礼を得たことを理由として懲戒解雇されたことの有効性が争われた事案です。同事案では、賞罰委員会規程に懲戒処分をする際には弁明の機会を付与することが規定されていたにも関わらず弁明の機会を付与せずに懲戒解雇がなされましたが(金融監督庁の検査の前に早く処理したいという意図があった)、裁判所は、 賞罰委員会の委員でもある人事部長及び人事副部長が本人と面談し、その際、 本人が金銭借入及び謝礼受領を認め、それらの行為が就業規則上禁止されていることは理解していた旨を表明していたこと、検査部による事情聴取の際にはそれらの行為を自認した自筆の調書を作成していることから、弁明の機会を与えていなかったとしても、直ちに解雇手続きに瑕疵があり、解雇が無効であるということはできないと判断しています。

これらの裁判例を踏まえると、 就業規則等に懲戒処分に関する手続が規定されている場合、原則として、同手続を履践する必要があるが、緊急性が認められる等、やむを得ない場合は、代替的な手段を取ることも可能であり、その場合は、非違行為に関する弁明だけではなく、懲戒事由該当性についての弁明も聴取しておく必要があると考えられます。

なお、実務上、就業規則等に懲戒処分に関する手続を規定する際に、「原則として」と明記しておくことも考えられます。

(2) 就業規則等に手続規定が無い場合

就業規則等に懲戒処分の手続について定めがない場合は、一般に弁明の機会が付与されていないことのみを理由として、懲戒処分が無効となるものではないとされています。

日本電信電話(大阪淡路支店)事件(大阪地裁平成8年7月31日判決、労働判例708号81頁)は、上司や同僚に対する度重なる嫌がらせ、恐喝、強要、暴行等の行為を理由とした諭旨解雇の有効性が争われた事案です。裁判所は、弁明の機会が付与されなかったことについて、就業規則上規定されていないため、弁明の機会を付与しなかったとしても何ら解雇の効力に影響を及ぼすものではなく、また、企業秩序を乱した点について極めて著しいものがあるため、弁明の機会を付与しなかったとしても、それのみによって、直ちに解雇が無効となるとはいえないと判断しています。

また、日本ヒューレットパッカード事件は、セクハラを行った社員に対する懲戒解雇の有効性が争われた事案です。同事案では、就業規則には懲戒処分は賞罰委員会の合議により決定されることとされていたが、弁明の機会の付与までは規定されていなかったという事情の下、裁判所は、一般論としては、被懲戒者に対し弁明の機会を与えることが望ましいが、就業規則に弁明の機会付与の規定がない以上、弁明の機会を付与しなかったことをもって直ちに当該懲戒処分が無効になると解することは困難と述べ、また、事前に弁明の機会を与えた場合、被害者に有形、無形の圧力が加えられる可能性があること、問題となったセクハラ行為の概略は告知されていることから、一応弁明の機会は付与されていると述べて、解雇を有効と判断しました。

これらの裁判例を踏まえると、 就業規則等に懲戒処分の手続について定めがない場合は、弁明の機会が付与されていないことのみを理由として懲戒処分が無効となるものではありませんが、懲戒処分が有効となるためには、弁明の機会を付与しなかったとしても、懲戒事由該当性及び懲戒処分の相当性が認められるという事情が必要であると考えられます。そこで、実務上は、可能な限り弁明の機会を付与 した方がよいと考えます。

(3) 諭旨退職・諭旨解雇における手続

懲戒処分の手続については、懲戒委員会の開催や弁明の機会の付与以外にも、例えば、就業規則に懲戒処分として諭旨解雇(諭旨退職)を設け、諭旨解雇の勧告に応じない場合は懲戒解雇をすると規定していた場合に、諭旨解雇の勧告に応じる機会を与えたと認められるかが問題となることがあります。

国立大学法人群馬大学事件(前橋地裁平成29年10月4日判決、労働判例1175号71頁)は、大学がパワハラ・セクハラを理由として被懲戒者を諭旨解雇処分とすることを教育研究評議会を開催して決定し、その旨を被懲戒者に告げたのに対し、被懲戒者がより緩やかな処分を求める陳述請求書を提出し、大学はこれを受理したが、意見交換の必要性はないとして、被懲戒者に対して諭旨解雇処分を告げ、同日中に諭旨解雇の応諾書または応諾拒否書のいずれか一方にサインをすることを求めたところ、被懲戒者は持ち帰って応諾するか否かを検討したいと述べたが、大学はこれを認めず、応諾を拒否したものとして懲戒解雇をしたという事案です。

裁判所は、諭旨解雇処分は被懲戒者の地位及び生活に重大な影響を及ぼす処分であるため、改めて家族や弁護士等と相談のうえ、諭旨解雇に応ずるか否かを決定したいと考えたとしてもやむを得ず、また、大学は、諭旨解雇に応ずるか否かを検討するのに要する時間を聴取しまたは回答期限を設定するなどの対応を取ることは十分に可能であったことから、懲戒解雇は、諭旨解雇の「勧告に応じない」と断定できないにも関わらず行われた就業規則に違反する違法な処分であるとし、さらに、被懲戒者の諭旨解雇の勧告に応じる機会という法律上保護に値する利益を侵害する不法行為に当たるとして、大学に被懲戒者が被った精神的損害に対する賠償として15万円の支払義務を認めました(なお、懲戒解雇の有効性については、このような軽微な手続き上の瑕疵があったとしても、懲戒解雇は有効となり得るが、同事案では懲戒解雇事由の該当性が認められないため、懲戒解雇は無効と判断されています。)。

懲戒解雇手続きは、緊急性が求められる場合も多いですが、拙速な対応とならないよう、就業規則の手続規定を十分に確認しながら、行う必要があります。

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